再会

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 怒濤の面接地獄が終わった九月上旬、夏夜は少しゆとりを持つことができた。本当はまだなにも終わってはいないし、なにも進んではいない。空いた時間はバイトにも行かなければならなかったが、それでも面接がないというだけで心の軽さがまったく違った。  しばらくぶりに部屋の掃除をした。四角いテーブルは二年前に七海と金を出しあって買ったものだ。その上にリモコンと、菓子のクズと、書き損ねた履歴書がいっぺんに積まれていて、本来白色の筈の机の色は愚か、角さえ見えない。  掃除機をかけながら大量のごみを拾っては袋に放り込んでいく。  カーペットの上に転がっているのは七海のピアスだ。つまみ上げ、しばらく眺めてみる。──これをしていたのはいつだったか? 「ま、いいや」  こんなところにほっぽり出しておくくらいだから、どうせ忘れているだろう。ピアスは放物線を描いてごみ袋に吸い込まれた。  雑誌を適当に拾い上げ、順不同で棚に突っ込む。部屋の広さに対して物が多すぎるのだ。  途中から嫌になって、掃除機を放り出した夏夜はいつしかソファーに寝転がってテレビを見ていた。平日の午前中に見るワイドショーなんていつぶりだろう。  秋の絶品スイーツとやらの特集で、スタジオで老若男女が美味そうにシュークリームにかぶりついている。  (もう秋の話してる)  なんだかこいつらが暢気に見えた。よく芸能人は多忙でうんたらかんたらと聞くが、こうして見ると楽な仕事じゃないかと思ってしまう。絶品スイーツ食って美味い美味い言うだけなら夏夜にだって出来る。  やがてテレビは一部報道のコーナーに入り、賑やかなスタジオから報道スタジオに切り替わった。今度はちゃんと『仕事をしている人』に見えた。無意識の差別である。 「大阪市内のマンションの駐車場で、男性の遺体が発見されました」
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