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内定取消しにあった大学生が自殺した。他人事とは思われないニュースに夏夜はいつになく真剣に耳を傾ける。
が、同時に哀れだなと、他人事のようにも感じる。ダメだったら次がある。諦めさえしなければ。
就活で命を落とすなんて愚かだ。輝かしい未来へ邁進する為の、ほんの少しの通過儀礼ではないか、そう思えばなんてことはない。
「可哀想に」
呟いた声音は自分でも驚くほど無機質だった。
○
七海のリクエストをコンプリートする作業は熾烈を極めた。
「ネギってさあ、なんでもいいの? 根っこが……なんだって?」
電話口がざわつくが周囲の喧騒はもっとだ。押しの強いマダムに睨まれ、夏夜は仕方なく野菜コーナーから撤退した。
七海が冷やし中華とロールキャベツを作ると言い出したのはいい。
「なんで冷やし中華にさあ、ネギ入れるの? おかしくない?」
「──それが美味しいんじゃない」
やっと聞こえた。
「ええ、そう?」
「食べてみたらわかるって」
夏夜の 小さな拒否など意に介さない。夏夜は仕方なく青ネギを一束カゴに放り込む。
もともとフローリングの"コロコロ"を買い足しに出た。七海からの電話は、偶然だった。
「わかんない? やっぱりあたしが帰りに寄って行くよ」
いつの間にか、電話口の七海の声が心配そうなものに変わっていた。そこに七海がいるように、夏夜はにっと笑って答えた。
「大丈夫だって。それより七海こそちゃんと合鍵持ってるか? この間玄関の靴箱の上に置いてあった。やれやれまったくドジだねえ……うん? そうだっけな」
他愛のない会話をしながらのんびりとカートの進路を変える。適当にジュースを何本か入れ、あとは日曜雑貨のコーナーで"コロコロ"を入手すれば終わりだ。
なんとなく会話が途切れず、意味もなく海苔のコーナーに迷い混んで足を止める。邪魔にならないようにカートをはしっこに寄せて、あたかも商品を物色するというテイでお喋りに興じた。
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