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脇を通っていく人に当たらないように、更に身体を棚にくっつける。通りすぎていく後ろ姿に夏夜はあれ?と目をこらした。
同時に、通りすぎた人物も数歩行ったところで足を止め、にやりと振り返る。言わずもがな、美音子だった。
「美音子ちゃん」
「は!?」
反応したのは美音子ではなく電話むこうの七海だった。しまった、と慌てる夏夜に美音子がくすくす笑う。
夏夜は急いで美音子から背を向け、「中学の同級生が、いた」と適当な嘘をぶっこいた。
「ここでバイトしてた、みたい。あー、びっくりした」
「ふうん」七海の言い方は了解したのか疑っているのか判別つきにくかった。
「ごめん俺、会計の順番来たから、また後で」
息をするように嘘をつき、通話を終了させる。七海は普段は優しいがとにかく嫉妬深く、怒ると推定70キロの体躯を揺らして飛びかかってくるのだ。夏夜などは、ひとたまりもない。
「ふう」
「大丈夫だった? 富士さん」
あの日とよく似たワンピースで美音子が首を傾げる。
「滅茶苦茶危なかったよ。美音子ちゃんが中学生なんて、電話じゃ伝えられっこないからな」
「彼女さん怖いのね」
「まあね。でも嫉妬されてるうちが華だよ。有り難いと思ってる」
「優しい」そう呟く美音子の興味は既にカゴの中に移っていた。「ネギにキャベツにお肉に生麺玉子。……なーに? なに作るの?」
「ロールキャベツと冷やし中華」
「いらなくない?」ネギを持ち上げた。いいんだ、と夏夜はネギをカゴに押し戻した。
「入れると美味しいらしいから」
「そんなわけないじゃん」
「俺もそう思うんだけど。いや、でも人間冒険心は捨てたらいけないよ。ひょっとしたらとんでもない化学変化を起こして、クックパッドで一位とるかもしれないだろ?」
「どうかしらん~~」
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