21人が本棚に入れています
本棚に追加
大きく首を傾げる。そのまま、夏夜がレジに向かうとついて来た。彼女もカートを利用し、乗せたカゴにいくつか食材を入れている。
「美音子ちゃんは今日はどうした?」
七海にはこれから会計が始まるような言い方をしたが、生憎とすぐ清算できるほど空いていなかった。同じ列に並び、暇潰しにお喋りすることにする。
「晩ご飯の買い出しよ。今日は私が作るの」
すぐにピーンときた。美音子の終活の中には手料理が含まれていた筈だ。すると、今夜がその決行日に違いない。
「偉い。ちゃんと実行してるじゃないか」
「ふふふ」
「海は行った?」
美音子は悲しげに首を振った。「無理だった」と萎んだ声を出す。なんだか気の毒になったが、だからといって夏夜がどうこうできる話でもない。
美音子と行ってる暇があるなら七海と行く。これは揺るぎない本音だ。七海は去年水着を新調していたが、結局風邪をひいて着られなかった。今年こそはビキニからはみ出た肉にサンオイルを塗ってと言っていたのに、それも叶わなかった。
やはり、いつでもいいような考え方をするとこうやってずるずると逃す。終活ではないけれども、美音子のようにある程度計画を立てて実行するのも悪くないなと思った。
落ち込む美音子の頭をぽんと叩き、彼女を元気づけようとした。
「美音子ちゃん。あんまり落ち込むなよ」
「うん……」
「俺はさ、嬉しいよ。美音子ちゃんが終活に失敗したってことは、それだけ君が生きてられるってことだろう? それから……そうだな、海は、夏だけじゃない。冬の海もいいよ。静かで、寂しい気持ちになるけど、いいもんだ」
「うん」
二回目の「うん」はやや力を取り戻していた。
「よし。じゃ、お先」
番が来て、夏夜はカートの上からカゴを持ち上げた。ついでに美音子の分も上げておいて、会計が済むと別れた。
存外遅くなってしまった七海への言い訳を考えながら、再び通話ボタンをタップする────
最初のコメントを投稿しよう!