再会

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 青暗い室内もしばらくすると目が慣れてきた。じっとテーブルの上に目をこらす。あの白い丸いものはなんだ?棒のようなものが飛び出して──ああ、そうか。ネギ入り冷やし中華の器に、箸を置いたんだ。そういえば片付けをしていなかった。  枕の下で手を組み、夏夜は天井に視線を移した。七海の腕が胸板に乗っかっている。 「七海」 「……はん?」  寝ているかと思ったが、七海からはわりとはっきりした返事があった。 「七海は、もしもだよ……もしも、ええと例えば三ヶ月後に死ぬって言われたら、なにしたい?」 「あーうーん、旅行」  物事を深く追求しないのが七海のいいところだ。即座にアンケートに答えてくれた。 「旅行かあ、いいね」 「パリでしょ、ニューヨークでしょ、あとハワイで海入って、死ぬ」  身も蓋もない言い方に夏夜は声をたてずに笑った。 「 やっぱり、海は外せないもの?」   横を向き、七海の身体を引き寄せる。夏夜の指が彼女の腹と腹の間に深く沈む。ベッドが大きく軋んだ音を立てた。 「海は外せないでしょう」 「なんで? 」 「なんとなく。一回入っときたいっての、ない?」  それ以上の説明を七海に求めるのは無理だった。おそらく彼女と美音子が最期に海を求める理由は、突き詰めれば似たようなところに辿り着くのだろう。が、それを分析するには七海はあまりにも楽観的過ぎた。 「夏夜は?」 「俺? 俺は……」  実は少し前から考えている。いくつか浮かんだ。死ぬとわかったら取り合えず両親にご飯をご馳走してあげたいとか、なにも考えず一日中寝てみたいとか。あとはなにをしたいというか、パソコンの履歴を消すとか、後腐れのないように掃除をするとか、つまらないことしか思い付かなかった。  後悔のないように死んでいきたいのは誰しも同じだが、いざ考えてみると、自分がどうすれば後悔しないのかなんて、生きてるうちにはわからない。
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