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円形から幾つもの筋が突きだし、星形に見える太陽に焙られた人々がアスファルトを交差した。
冷房の効いた建物から一歩外に出て、あまりの温度差に富士夏夜(ふじ・なつや)は大袈裟ではなく、本気でよろめいた。
腕時計を見る。次の予定までまだ二時間ある。誰に気兼ねする必要もない。瞬く間にスーツの上着を脱いで、シャツの袖をめくった。
それだけでは暑さを払拭できず、コンビニでアイスコーヒーを買った。冷蔵庫で待機しているタイプのヤツは冷えていない可能性がある。カウンターでカップを貰って、氷のたっぷり入っている方にした。
吸い上げながらもう一度時間を確認し、ドアを押したところで誰かとぶつかった。いや、夏夜がドアを開けた瞬間、女の子が頭から突っ込んですり抜けようとしたのである。
「わ」
思わずカップを取り落としてしまう。女の子が落とした便箋の上にコーヒーがもろにかかって、薄いピンク色だったのが瞬く間に臭そうな色になってしまった。
「わっ……つ、すいません」
かき集めてもオジャンということは明白だったが、一応人として、急いで拾い集める。他の客の邪魔にならないよう少し移動した。女の子は微動だにしない。
「あーあ……」
と言って、汚れた便箋の束が夏夜の手に回収されていくのを見守っている。
「大事な、書類かなにかだよね?」
そうたずねる夏夜に女の子はあっさり首を振った。そのとき初めてまじまじと見たが、やはり瞬間的にとらえていた印象は間違っていなかった。
黒いおかっぱ、未発達な細い腕、小さな口許。彼女はまだ中学生くらいなのではないか。
「友達に手紙出そうと思ってただけだから」
「…………そう。急ぎではない感じ?」
「ううん、凄く急いでる」
なんだ?と夏夜は一瞬怯んだ。さっきは大事じゃないと言ったのに。
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