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小娘相手に動揺を悟られたくなかった夏夜は、必死でわいた感情を押し戻した。──今日は間に合ってます!
「ええと、じゃあ。どうすればいい?」
女の子は笑った。白いワンピース一枚だけ引っ掻けて、まるでてるてる坊主だ。
「今から文房具屋さんに行って、便箋を買って。可愛いやつね。それで、戻ってきたらあそこで」
コンビニの奥のイートインスペースを指す。夏夜もよく利用する。
「もう一度手紙を書くの。で、切手をレジで買ったらそのまま出すの。それでいいわ」
「それ、俺が全部やるの?」
「私がやるよ。お金出してよお兄さん。私はもう便箋を買うお金が今日はちょっと」
ますます、未成年の確信が強まった。わざわざ聞くことでもないので黙っているが。
「いいよ。でも俺3時から行かなきゃいけないところがあるんだ。だからそれまでな」
「ありがとう」
にこーっと笑った顔は、この酷暑にしては白かった。
○
「富士さんって、富士山みたいね」
美音子は冗談を言ったがその表情は失笑程度だった。買い直したコーヒーのストローを歯で噛み、夏夜も苦笑いした。
「それはねえ、富士さんはもう聞き飽きてるんです」
美音子はそれには反応しなかった。無心で手紙を書いている。彼女──春日美音子(かすが・みねこ)はやはり15歳だった。
二人合わせてミネフジコ。これは運命の出会いだって、あほか。
腕組みをした状態で身を乗り出すと、美音子はすかさず手で覆い隠してはにかんだ。
「だめー」
「はいはい、ごめんごめん」
少女のプライバシーを侵害したのには理由がある。夏夜にはすることがない。
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