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(俺、この娘の作業が終わるまで待ってなきゃいけないかな)
もう十分義理は果たせたと思うのだが。
財布から小銭を出して美音子の視界に入るように置く。美音子が反応し、夏夜の顔を見た。
「ごめん、俺行くね。それは切手代、お釣りは持っといて」
忙しなく上着を抱え、振り返る美音子の肩を優しく叩いた。
「便箋ごめんな。熱中症にならないように」
コンビニを出た瞬間に美音子のことは忘れた。いい意味で待ち時間リラックスできたかもしれない。
上着を羽織りなおし、しわがないことを確認すると、ふうっと自然に息が出た。
○
「私は去年の夏、学校を建てにカンボジアに行きました。そこで学んだことは、教育のできる環境が整っていないこと──」
三つ目の面接が終わると午後7時を回っていた。何度目かになると感想もわいてこない。言うことは決まっているし、いちいち一つ一つに感想なんて抱いていられない。
手応えとしては十分だったんじゃないかと思っているのだが、そこはもう相手に委ねるしかない。
建物を出るとやはり温度差に参った。それでも昼間の突き刺す太陽光がないだけマシ度が雲泥の差である。
今日の予定はすべて終了した。ほっとして、肩の力が抜けた夏夜は、その場で彼女に電話した。
「──あ、もしもし七海(なみ)? 終わったよーおうおう、どうもどうも。お前、今日は女子会だっけ。あんまり俺の悪口言わないでくれよ…………嘘だよあははバーカそんなわけな、」
横断歩道のむこうに美音子が立っていた。偶然の再会でないのは、彼女がまっすぐ夏夜に向かって走ってきたからである。
夏夜はしばらくの沈黙を七海に説明するのと、早々に電話を切り上げるのに苦労した。
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