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晩飯代がないんだったら、言ってくれりゃ良かったのにさという夏夜の言葉に、美音子はやっとかぶりついていた皿から顔を離した。
安いドリンクバーと知れたような飯でもファミレスはなにかと万能だ。
ハンバーグとライスのセットを5分で三分の一にした美音子は、恥ずかしそうにフォークを置いた。今更な羞恥心に夏夜は笑った。
「いいよ食べなって。俺見てるから」
美音子がむっとした顔になる。
「見てなくていい」
「 君さあ、うすうす思ってたんだけどもしかして家出少女? 駄目なんだぞ未成年がこんな時間にフラフラしてたら」
美音子が無表情だったので、夏夜の冗談混じりのつもりのニヤニヤ笑いは完全に空を切った。
「家が、ないの」
「え? どういうこと? 家がないのに、今までどうやって生きてきたの?」
「住むところはある。でも家はないの」
なんだ。と喉まで出かかった。前にのめった
上半身が再びシートに帰る。
「家あるんじゃん」
「ないの!」
「だって住むとこあるんだろ」
唇を噛み、美音子は黙った。言い負かされたのではなく、理解のない相手に対する諦めと悔しさが混じっていた。
夏夜はちょっと反省した。わざわざ言い回しを変えてるってことは、複雑なことがあるかもしれないんだ。それを俺って奴は頭ごなしに。
「ごめん、言い過ぎた。で、住むところはあるけど家がないから、毎日昼も夜もフラフラしてんのかい? これは詮索じゃないぜ、本当に危ないんだ。最近の事件は君のような可愛い女の子は真っ先に命をとられる。死ぬの怖いだろ? 悪いこと言わない、これ食ったら家──住んでる場所に帰ろう」
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