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「"好きな人"って書いてあったでしょ? だから彼氏じゃなくていいの」
「そんなの余計難しいよ。誰が好きでもない女の子とキスしたり海連れてってくれたりすんの?」
美音子が黙るので、夏夜は慌てて机の上に置かれた彼女の手を握った。辺りを見渡し、声を潜める。
「……バカ、やめなさい。そらちょっと、女子中学生相手に出来ると知ったら男は言うこと聞くかもしれないけど、自分を大事にしないと。騙されるだけだ」
美音子の肩が震え出す。泣いているのかと思い、必死で顔色を伺っていたら、面を上げた彼女は満面の笑みだった。
「くくく……富士さん面白い…………」
我慢ができなくなった美音子は顎を上げて高らかに笑い転げた。机の下で足がバタバタ揺れて夏夜の脛を蹴る。
美音子の手を握った状態のまま、夏夜は呆け通した。
「…………ふふ。富士さん、私援交なんかしないよ」
「そう? だといいんだけど……いや、絶対、駄目だからね」
「うん、しません。いいの、まだ期限はたくさん残ってるから」
それならさ、と美音子は軽く机を叩き、ほっとして気を抜いていた夏夜を我に返らせた。
「海は富士さんが連れていってよ」
思い付いたような口調ではあったが、それはフリで、最初から海に関してはそれをアテにしていたのは明白である。
夏夜は少し大袈裟に、重々しく首を振った。美音子が残念そうな顔になる。
「だめー?」
「ダメ。俺、彼女いるし。今は彼女にも構えないほど忙しいんだ」
ほう、と美音子の瞳が興味深そうに輝く。
「俺もシュウカツの真っ最中だからね」
「シュウカツ? なーんだ、死に友だ!」
「違うわ。俺は就活、仕事の方」
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