第一章『苦悩』

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 まずは、女性を確保するのが優先だ。  逃げるにしても、女性を連れていかなければここまで来た意味がない。  その後は、三体のゴブリンをどうにかしてこの場から遠ざけること。  方法はなくもないが、今は取り敢えず女性を一人で運ぶように仕向けなければな。 「ナァ、ソの人間、俺ガ運ンでもイイか?」 「ン? オ前ダケでカ?」  なんで一人で持とうとするのか不思議に思っているゴブリンに、剣二は最もらしい事を言う。 「仲間ニなレるなラ、コレぐラいヤるサ」 「オォ……じャア頼んダゾ」  感心した顔で頷くゴブリンはそれだけ言うと、簡単に女性を手放す。  剣二は慌ててその女性を受け止め、おんぶする。  背負った時、正直重くてふらつくのでは? という思いがあった剣二だったが、意外にも重いと感じなかった。  女性の身体は160cm程で、細身であるのもあるがそれにしては軽い。  ゴブリンの身体は小さいが決して非力ではないということか?  自分の身体の性能がいまいちわからず唸っていると、近くにいたゴブリンが声を出す。 「巣ニ戻ル」  リーダー格らしいゴブリンの一言に他のゴブリン達は頷き、森の中を歩き始める。  その後ろを歩く剣二は、彼らの迷いのない足取りに気づく。  やれやれと、剣二は思わず首を横に振る。  ゴブリン達から逃げ切る事が難しくなったと、思った瞬間だった。  しかし、不可能ではないはず、正念場はここからだ。  気合を入れ直し、剣二は女性を落とさない為に背負い直そうとした時、彼女の口元からヒッ! っと悲鳴が聞こえた。 (起きてる……?)  全く想定していなかった事態に、その場で少し固まる。 「オい、モう疲レたのカ?」 「い、イヤ、大丈夫ダ。気ニせズ行っテてクレ」  先に進んでいたゴブリンから心配する声が聞こえ、剣二は咄嗟に返し、怪しまれないために足を動かす。  鼓動が早く、額から汗が流れる剣二は必死に思案する。  さっきまで考えていた計画を大幅に修正しなければいけなくなった。  タイミングが悪すぎる。  剣二は愚痴を零したい衝動に駆られるが、そんなことも出来ずに頭を悩ませる。  逃げる為の手段として、彼女との協力が必要不可欠になったのだ。  となれば、彼女に声を掛けなければ始まらない。  あぁ、憂鬱だ。
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