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「俺ハ、流レ者ダ」
「ハぐれカ。オ前、俺ラのエモノ、奪イにきたカ?」
警戒心を露わにする目の前のゴブリンに、剣二は慌てて訂正する。
「チ、違ウ!」
「なラ、なンダ?」
「仲間ニいれテ欲シイ」
剣二は出来る限り相手を刺激しないように近づき過ぎず、相手の出方を窺う。
ここで焦れば最悪戦いになる。
そうなればこの女性も自分もお陀仏だ。
ゴクリッ……と、剣二は唾を飲み込む。
「仲間ニ?」
「そうダ」
「仲間にナるなラ……長に言ワないトだめダ」
ゴブリンは数秒考えた後、そう返してくる。
どうやら今ここで断られることはなさそうだ。
「なラ、ソノ長ニ会ワせてクレ」
「ウ~ン……ワかッタ。オ前、長ニ会ワせる」
そこまで熟考することもなく、ゴブリンは頷く。
何とか怪しまれずに近づける口実が出来た。
勿論、剣二は本当に仲間になろうとは思っていない。これはあくまで仲間になるフリだ。
女性を助けるにはこのゴブリン達を欺く必要がある。
ただ、女性を助ける事が出来る時間は短い。
住処に着いてしまえば救出はほぼ不可能だ。住処の規模がどれほどなのかはわからないが、少なくても数十から数百がいてもおかしくない筈である。
剣二がそんな事を考えているとは知らないゴブリン達は、敵じゃないと判断したのか、警戒が薄れる。
剣二は警戒がなくなった事を察し、何食わぬ顔で女性の手首に触り、脈を確認する。
手首からドクドクと脈が打つのを確認し、そっと息を吐く。
だが安心は出来ない。
女性の頭から血が流れているのだ。恐らく何か硬いもので頭を叩かれたのだろう。
傷が深くなければいいが。
剣二が心配する中、ゴブリン達はうきうきした様子で会話をしていた。
「こレで、長ガ喜ブ」
「オう。これデ今日ハ腹イっぱイ食エる」
ステップをしそうな雰囲気で話す彼らに、剣二は思わず目を逸らす。
な、何と言うか、罪悪感を感じる。
剣二は気まずい気持ちを押し殺し、女性と共に逃げる算段を立てる。
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