第一章『苦悩』

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「俺ハ、流レ者ダ」 「ハぐれカ。オ前、俺ラのエモノ、奪イにきたカ?」  警戒心を露わにする目の前のゴブリンに、剣二は慌てて訂正する。 「チ、違ウ!」 「なラ、なンダ?」 「仲間ニいれテ欲シイ」  剣二は出来る限り相手を刺激しないように近づき過ぎず、相手の出方を窺う。  ここで焦れば最悪戦いになる。  そうなればこの女性も自分もお陀仏だ。  ゴクリッ……と、剣二は唾を飲み込む。 「仲間ニ?」 「そうダ」 「仲間にナるなラ……長に言ワないトだめダ」  ゴブリンは数秒考えた後、そう返してくる。  どうやら今ここで断られることはなさそうだ。 「なラ、ソノ長ニ会ワせてクレ」 「ウ~ン……ワかッタ。オ前、長ニ会ワせる」  そこまで熟考することもなく、ゴブリンは頷く。  何とか怪しまれずに近づける口実が出来た。  勿論、剣二は本当に仲間になろうとは思っていない。これはあくまで仲間になるフリだ。  女性を助けるにはこのゴブリン達を欺く必要がある。  ただ、女性を助ける事が出来る時間は短い。  住処に着いてしまえば救出はほぼ不可能だ。住処の規模がどれほどなのかはわからないが、少なくても数十から数百がいてもおかしくない筈である。  剣二がそんな事を考えているとは知らないゴブリン達は、敵じゃないと判断したのか、警戒が薄れる。  剣二は警戒がなくなった事を察し、何食わぬ顔で女性の手首に触り、脈を確認する。  手首からドクドクと脈が打つのを確認し、そっと息を吐く。  だが安心は出来ない。  女性の頭から血が流れているのだ。恐らく何か硬いもので頭を叩かれたのだろう。  傷が深くなければいいが。  剣二が心配する中、ゴブリン達はうきうきした様子で会話をしていた。 「こレで、長ガ喜ブ」 「オう。これデ今日ハ腹イっぱイ食エる」  ステップをしそうな雰囲気で話す彼らに、剣二は思わず目を逸らす。  な、何と言うか、罪悪感を感じる。  剣二は気まずい気持ちを押し殺し、女性と共に逃げる算段を立てる。
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