『プロローグ』

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 焦げるような太陽の光が地上を照らす。  息苦しいと感じる程の熱い風に吹かれる木々たちは、どこか元気がない。  太陽の暑さで森に住む動物達は喉が渇くのか、舌をだらしなく外に出し、短く呼吸を繰り返す。  水を求めて湖の近くへと足を運び、身体を休ませる動物達は無防備な姿を晒す。  だが、森の中で気を緩める事は死を意味する。  湖の水を舌に絡めて喉に通す、一匹の鹿は気付かない。  後ろに別の存在がいる事に……。  その者は緑の肌を持ち、子供で言えば十歳程の身長で、小柄だが筋肉質でしっかりとした身体を持っていた。  顔は醜く、人間が見たら顔をしかめる程度には酷い。ギョロッとした目に睨まれれば子供が泣くのは間違いないだろう。  ――彼はゴブリンと言われる魔物である。  集団で人間や動物を襲う魔物。知能は人型の魔物であるため、そこそこ賢く、また狡賢い。  だが、鹿を狙うこのゴブリンの近くに仲間は見えない。  ゴブリンでは珍しく、一人で狩りをしているようだ。  緊張した顔で一本の錆びれたナイフを持ち、ジリジリと鹿に近づくゴブリンは、額や手に汗を噴き出す。  数歩まで近づいた瞬間、ゴブリンは鹿に飛びかかる。「キュイィィィ!?」 「クソッ! アバレルナ!!」  鹿の首に、手に持つ武器としては心許ない錆びれたナイフで刺す事に成功したが、鹿を完全に仕留める事は叶わなかった。  中途半端に刺さったナイフに、鹿は苦しい声を上げて暴れるが、ゴブリンは必死な表情で鹿の首にしがみ付き、ナイフに力を込める。  鹿の首から流れた血が、地面を紅く彩り、森に悲壮な鹿の鳴き声が響き渡る。  しばらくして、鹿の動きは完全に止まった。  絶命したのだ。  力なく地面に横たわる鹿に、ゴブリンは額に噴き出た汗を腕で拭う。 「タクッ、テコズラセヤガッテ」  小さく愚痴を零すゴブリンは、ドテッ、と、その場で腰を落とし、身体を休める。  ふと空を見上げるゴブリンの瞳は、他のゴブリンの濁った瞳とは違い、綺麗な瑠璃色で知性を感じさせた。  それは異常で歪な姿。  何故なら、彼はただのゴブリンではないからだ。  彼は…………。 “元人間”なのだ。
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