1. 徒然なる花弁の優

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 春の風が爽やかに動く中、ひたすら続く細々とした奈良の山道を車で走った。 緑色の木々たちが次から次へと私に挨拶するように顔を出す。 小鳥のさえずりや川の流れる音が何処にいても聞こえてきそうな、自然がそこにある。 ドライブをするのには最高の環境かもしれないが、コンビニどころか店すらない。 所々に眇眇たる道の駅があるくらいだ。 バスすらもあまり通っている気配がない。 ここでどうやって人は生活していくんだろう?  祖母の暮らしていた村はそんな場所だった。 「山桜の木にお友達がいるの」  祖母は名古屋市内にある、小さな古びた一軒家の自室のベッドの上にいた。 一人暮らしの祖母は寝たきり状態で介護ヘルパーさんのお世話になるくらい弱ってしまっている。 仕事が忙しい両親に代わり、孫娘の私が大学の帰りに祖母の実家に寄り、度々様子を見に行ったりしていた。 祖母の宮下吉乃は、ひたむきで優しく、どんな苦労にも黙って耐える強さを持った女性だ。 私はそんな祖母に小さい頃から面倒を見てもらう機会も多く、たくさんの遊びも教えてもらった。
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