第1章

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 「徳川家に祟るという村正伝説ですね」  銀行員の平松文也が佐藤の言葉を継いだ。  「どういう風に祟ったんですか」  若い塚本宏の問いに、 平松は答えた。  「家康の祖父清康、 父広忠、 そして嫡男信康が村正の刀で殺されています。 それで徳川家にとっては村正は禁忌の妖刀なんだよ」  さすがに居合をやるだけあって、 刀にまつわる話などよく知っている人達だと、 小野は感心して平松の話を聞いた。  そうこうするうちに車は天峰山の登り口の峠まで来た。 この天峰峠は標高九百五十メートルで、 この峠の駐車場に車を止めてそこから三時間の登りで山頂付近の山小屋天峰山荘に達する、 というのがその日のスケジュールだった。
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