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「そう、ただ残念ながら今日は彼女は不在。知ってのとおり此処に住むためには色々と手続きがあるから、ロゼッタと出掛けているんだ」
閉じた本を置く代わりに机の上からティーカップを取り上げて、ヴィタは冷めかけた香茶を一口飲む。自分で香茶を淹れることなどしないから、それを淹れたのは客人であるはずのニコラだったけれど、それもいつものことだった。
あまりに普段と変わらないヴィタの態度に軽くめまいを覚えつつ、ニコラは椅子に座りなおす。
「いつも言っているとおり、きみが事前に連絡をくれていれば予定の調整もできたし、紹介もできたんだけれどね。彼女に関しては、外の世界を知っている友人が居たほうがいいだろうとは考えていて。僕の交友関係の中では、きみが一番の適役なんじゃないかと思っているんだけれど、きみはどう思う?」
「え? ……ええ、それはもちろん、喜んで」
滑らかに言葉を並べたあとで、あざといほどの微笑を浮かべ、小さく首を傾けて見せるヴィタに、ニコラは短く言葉を継ぐのが精一杯だった。
そのまま、うう、と低くうめいて、両方のこめかみのあたりを指先でほぐすように押しながら、机に突っ伏してしまう。
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