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「うふふふ、ねえニコラ、驚いた?」
ヴィタは楽しげな声を上げながら、いたずらっぽく笑って机越しに身を乗り出すように、ニコラを覗き込む。
ニコラは少しだけ顔を上げ、わずかに迷うような間のあとで、表情を改めた。身体を起こして、ヴィタの目をまっすぐに見つめる。
「驚いたわ、本当に驚いたけれど、ねえヴィタ。分かっているの? その子の人生を、あなたは預かったのよ」
「ありがとう、ニコラ。大丈夫、覚悟はできてるんだ」
ニコラはヴィタの言葉の意味を探るように、しばし見つめあう。けれど、自分から視線をはずすと大きくため息をついて、それならいいけれど、と肩をすくめた。ティーカップの香茶を飲み干し、すっかり冷たくなったそれにわずかに眉を顰めた。
それを見て、ヴィタは机の上に頬杖をつき、また小さな笑い声をこぼす。まなざしが優しげにゆるんだ。
「きみは本当にいい子だね。きみが僕の友人でよかった。メイのこと、心配してくれてありがとう」
今ではニコラのほうが幾つか年上に見えるけれど、ヴィタの外見は、ニコラが初めて会ったときからほとんど変わっていない。
ほんの時折、彼女が見せる表情で、ニコラ自身もそれを思い出すのだった。
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