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「ったく……気ぃ抜き過ぎだろ、あいつら。堂々と脱走されてんじゃねぇよ」
「脱走って……でも、リディアナさんはどうしてここに?」
ここには居ないZEROへ悪態をつくリディアナに、セレスは思わずそう尋ねてから一人で納得してしまう。
言うまでもなく、セレスを監視していた事は明らかで、何と間抜けな質問をしてしまったのだろう。
表情を強ばらせたセレスを冷たく一瞥したリディアナは、鼻を鳴らして顔を背けた。
「そんな目をするって事は、解ってんだろ。信用なんかされてないって事。今お前を止めたのも、お前の為じゃない」
「はい……」
それが辛いと、嘆く資格はないと解っているから、小さく頷き海原を眺める。
歌はもう、聞こえない。
覚えていない事を不思議には感じたが、恐怖のようなものはなかった。
寧ろ海を見ているだけで、心が凪いでいく。
「お前の番犬はどうした?」
沈黙を破るリディアナの問いに、セレスはキョトンと視線を戻す。
「あ……手紙を届けに行って貰ってます。プラチナさんと、ルードヴィッヒさんに」
「…………」
問われるままに答えたと言うのに、リディアナは不快そうな皺を眉間に刻んだ。
「……どこまでも中途半端だな。あの連中だって、シビルを手に入れようとしてたってのに」
「えっと……」
「選べないくせに、どちらも手の中に留めようとする。自分は何一つ変えようとしないで、周りの連中に変わる事を求めるつもりかよ」
リディアナが何を言いたいのか、何を重ねているのか、解らない振りなんて出来なかった。
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