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転移魔導を発動させながら、リディアナは乱暴にセレスの肩を掴んだ。
「……クロードからの報告だ。ヒューガの奴、機関から逃げ出していたらしい」
――――
暗く冷たい水底を彷彿とさせるカプセルの中、四肢を投げ出したゆたっていた少女が、そっと瞳を開く。
(姉さん……)
もう少しで、手が届きそうだったのにと、少女は……レリスは何も掴めなかった指先を翳す。
こうしていても、セレスの心が悲鳴を上げているのが解る。
それはレリスが、セレスの片鱗だからなのだろう。
辛いと嘆いているのなら、その魂をレリスに差し出せばいい。
そうしたら、ずっとヴィンセントと共に居られると言うのに。
「レリス、気分はどうです?」
レリスの様子を確かめに来たフランシスが、カプセル越しに問い掛ける。
「……ヴィンセント様は?」
会いたいのは、フランシスではないと言いた気に、レリスは彼を見る事なく質問で返す。
だから、解らなかった。
フランシスの表情が、一瞬だけ翳りを帯びた事を。
「貴方のメンテナンスが終わったら、いつでもお会いになれますよ」
「…………」
通り一遍のフランシスらしい答えに、レリスは翳した手でカプセルの壁に触れた。
ガラスを隔てて見たフランシスは、優しく首を傾げてみせる。
「そうしたら、姉さんにも、会える?会いに行っても……いい?」
「……それは、ヴィンセント様の許可が出てからですよ」
逸る気持ちを宥めるように、苦笑いを浮かべたフランシスが囁く。
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