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再会を噛み締める猶予をくれたレヴィアスに、もう少しだけと頭を下げる事も出来なかった。
もし聞き届けられたとしたら、ズルズルと繰り返してしまうだろうと、解っていたから。
開けた視界は、途端に現実を連れて来る。
切り離されたような山脈地帯、どこまでも寛大な紅龍の腕。
それら全てが、夢だったのではないかと思える程に。
――私の心が望み、そう選択したからだ――
だが、胸を熱くする紅龍の言葉は、形は無くても本物だ。
グレン男爵の別館を前に、恐怖がないと言ったら嘘になるけれど。
セレスは真っ直ぐにレヴィアスを見詰め、深々と頭を下げる。
「……?」
怪訝そうにセレスを見下ろす視線が、旋毛に突き刺さるのを感じた。
「レヴィアスさん、本当に……ありがとうございます。紅龍と、会わせてくれて」
感謝してもしきれないと、どんな言葉も薄っぺらく聞こえてしまう程の思いは、少しでもレヴィアスに伝わるだろうか。
「礼なら、ルードヴィッヒにでも言え。紅龍の情報を寄越して来たのは、あいつだ」
「へ……?」
おざなりに受け流したレヴィアスは、セレスを置き去りに別館へと歩き出す。
何故ルードヴィッヒの名前が出て来るのだろうと首を傾げた時、セレスはルイの言葉を思い出した。
ルードヴィッヒから届いた手紙を目にした途端、レヴィアスが出て行ったと。
その手紙がどの様な内容だったのかは解らないが、それが切っ掛けになったのは間違いない。
「でも、紅龍を探し出してくれたのはレヴィアスさんです!ルードヴィッヒさんにも、改めてお礼を伝えに行きますが、私は今レヴィアスさんに……っ」
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