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「兄ちゃんがいなくなって、兄ちゃんの部屋でいろんなこと考えてた。俺には、何もできなかったのかなって。もしかしたら、何かできたんじゃないかって。
夜はいつも二人並んで窓から見える夜空にむかって、“明日も笑っていられますように。”ってお願いするんだよ。でも、その願いを“兄ちゃんをどこにも連れて行かないでください。”ってお願いしとけばよかったのかなって。
それだったら、兄ちゃんは今も俺の隣でこんな風にギター弾いてくれるんじゃないかって思ってさ。」
岸の手には、その人と映る写真が握られていた。
写真に付いている歪みの跡はきっと、岸が自分の無念さを力に込めたものだと思った。
「そんなこと思ってたら、窓に近づけなくなっちゃったんだよ。空見るのも嫌いになった。でも、自分の部屋からなら空見れるんじゃないかって思って。夜の空じゃなくてさ、夜になる前の夕焼けいっぱいの空。
夜の空にお願いしても、太陽は知らないだろ。月は知ってるかもしれないけど、太陽は寝ちゃうじゃん。
でも、夕焼けは中間だから、太陽と月に俺の願伝えてくれるかもしれないじゃん。だから、夕方の空にお願いすることにしたんだよ。
“もう誰もいなくなりませんように。”って。」
岸は、泣いていた。俺は、泣かなかった。
俺が泣いたら、岸が泣けないと思ってから。
「願い事してからね、少しだけ夕焼け見てたらさ、なんか道端であたふたしてる頭を発見したんだよ。」
頭?
「めっちゃ機敏に動いてて、明らかに焦ってる感じ。」
焦ってる?
「それが、澤ちゃんだったってわけ。」
そうか、その時に、お前が俺を見つけてくれたのか。
「その時思ったね。兄ちゃん、俺、もしかしたら見つけちゃったかもって。直感でね。」
俺は、涙を、止められなかった。
「それで、手招きしてみたんだ。」
俺は、何も、何にも知らないまま、その人を羨ましく思っていたんだ。
きっかけは、お前の一番大好きな人が作ってくれたものだったのに。
「あれ?澤ちゃん泣いてるの?ごめんね、こんな話。でも、澤ちゃんには言っておかないとね。」
岸の涙は止まっていた。俺の涙は止まらなかった。
「そうなんだ。」と、俺は少し強めに目を擦り、岸を見つめて言った。
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