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「お前なぜ、比叡山に来た?高野山でも良かったろうに。」
最澄は、自分を見ても少しも怯む様子もなく、それどころか、子供のくせに昼間から酒気を帯びている、その奇妙な稚児に向かってそう尋ねた。
「だって、こっちのお山の方が家から近い。」
その答えにため息が出た。
勉強熱心で、優秀な稚児がいると聞きおよび、わざわざ顔を見にやってきたものの…あきれた奴だ。
「仏教の戒めに、酒を飲んではならん、というのがある。おぬしはそれをどう考える?」
「お釈迦様の生まれたインドじゃそうかもしれないけどね、あそこは年中暑いと聞く。だから酒が回りやすく良くないからだろう。私のいるこの国は寒いから、酒で暖をとる。これは理にかなっている。」
こいつとこれ以上の議論は、時間の無駄である、と最澄は思った。
ただの、屁理屈の、口の減らないつまらぬ餓鬼に過ぎぬ、と。
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