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とにかく、だ。
花枝の言うようにそんな危険な場所に自分から首をつっこむほど、江湖はこの世とおさらばしたくはない。
世界を渡った自分が言うのも滑稽な気はするが、死んだ覚えはないのでここは天国や地獄などではないだろう。
もはや天国や地獄なんてものが存在するのか、なんて話になるとややこしいので置いとくが、少なくとも自分は死んではない。はずだ。
思わず手首に指を添えてみるが、大丈夫、ちゃんと脈うってるわ。
江湖はなんだか混乱してきた思考回路にストップをかける。
「悪いけど、力になれる気がしないわ」
「んー……そっかぁ。んじゃ俺だけで行ってくるわ」
「待ちなさい」
屋根の上で数秒考え込んだネムレスの結論に、江湖は思わず待ったをかけた。
まさかとは思うがこいつ、江湖が協力しなかったら自分1人で組織に立ち向かう気か。
それは無謀だと、自分で言っていたはずだがもう忘れたのだろうか。
「まぁ、元々俺1人で行く予定やったしな。大丈夫やろ」
「大丈夫な訳ないじゃない」
どうやら冗談で言っている訳でも、ハッタリで言っている訳でもないみたいだ。
緊張感などカケラも持ち合わせていなさそうにカラカラ笑っているネムレスに、江湖は小さくため息を吐いた。
「ちょっとエコりん……」
「しょうがないわね。ついて行ってあげるわよ」
「え、いいん?」
「ちょっとエコりん?!」
花枝の何か言いたげな声を無視して言うと、ネムレスは拍子抜けしたようなマヌケ面を晒す。
花枝の眉間にはグッとシワが寄ったが、これは仕方ないと思う。
こんな話を間近で聞いて、江湖たちが協力せずにここでネムレスと別れてしまったら。
そして何の知らせもないままになったりでもしてしまったら、もう一生気になってしまうと思うのだ。
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