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「もっと、速く走りなさい!!!!!」
夏の夜を、劈くような声が脳みそに響いた。
訳がわからず、その理由を教えてと乞う訳にもいかず、ただその言葉に従って走り続けた。
千切の今まで見たことがないくらいに必死な顔が、恐怖心を増長させた。
「待て、アカギリ!!」
「おい、そっちまわれ!!」
追ってくるのは、黒スーツの男達。
真っ黒なスーツに、真っ黒なサングラス。
中には外人も混ざっていた気がする。
普通のサラリーマンではないのは、一目見てわかった。
だが、何故千切と、ついでとばかりに江湖まで追いかけられているのか。
というか、アカギリとは。
「江湖、今は逃げ切ることだけを考えなさい」
「……で、でも」
「大丈夫。貴方だけでも逃がしてあげるわ」
物陰に隠れ、二人組の男達をやり過ごす。
もう街中を走り回った気がする。
じわりじわりと追い詰められ、倉庫が建ち並ぶココに足を踏み入れたが、果たして逃げ切れるのだろうか。
湿って貼りついたシャツが鬱陶しい。
「江湖、こっち」
スーツの男が通り過ぎたのを見て、場所を移動する。
千切の手がひんやりと冷たい。
そんなどうでもいい事が頭をよぎった。
「ダメです、見つかりません」
「見つかるまで探せ!!絶対逃がすなよ!!!」
運良くドアが開きっぱなしになっていたクレーン車の中に身を潜め、男達が諦めて去るのを待つ。
しかし、なかなかしつこくそこら中を探し回る男達に、小さく身じろぎしたその時。
カチッと言う音と共に、窓が開いた。
どうやら窓を開けるスイッチを押してしまったらしかった。
それに気づかれ、男達が集まってくるのを気配で感じ、サッと血の気が引く。
「り、龍人……」
「……大丈夫、大丈夫よ。江湖はここにいて。動かないで」
「でも……!」
「……そんな顔しないの」
大丈夫だから。と頭を撫でるその手が離れ、千切はドアを開けて出ていく。
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