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「アカギリ、ようやく観念したらしいな」
「それより、アカギリって呼ぶのやめてくれないかしら。今は千切よ」
「千切?」
「……オネェになってる」
「あんなキャラだったか……?」
黒スーツの男の言葉に、眉間にシワを寄せる千切。
その言葉に、後ろにいた黒スーツ達にざわめきが起こるが、先頭にいる黒スーツの咳払いで静かになった。
「お前がデータを全て消去した研究の後始末をさせてもらおうか」
「なんの事かしら」
「ふん。そうやってしらばっくれても、上層部の怒りは収まらんぞ」
千切に怯えた様子は一切なく、腕組みしながら相手を見据えている。
話している内容はちんぷんかんぷんだったが、恐らく千切はアカギリという名前で、研究者だったのだろうか。
その研究のデータを、千切がすべて消去した?
「あともう少しで核爆弾以上の兵器が完成しそうだったのに、それをすべて消去するとはな。馬鹿な事をしてくれたものだ」
「何度も言うように、俺は爆弾なんかつくるつもりはなかった。元素研究からの偶然の産物に、無理矢理首突っ込んできたのはそっちじゃない」
「わかっていないな。アレを完成させることにより、我が国の戦力は何倍にも膨れ上がるのだ」
「はぁ?もう戦争はしませんと宣言している国に戦力なんていらないでしょう。もっと他のことに目を向けられないのかしら」
これだから男は脳筋で困るわぁ。と続ける千切の顔は、それはもう不快そうだった。
心なしか、黒スーツの男達の口元が引きつっている。
「とにかく、上からの命令だ。お前にはまた、研究を再開してもらう」
「い、や、よ。もう一度同じ研究だなんてつまらないし、爆弾なんて完成させるわけないじゃない。そんなくだらないもので、何人の命が失われると思ってるのよ」
「そうか。だが、無理矢理にでも連れてこいとのお達しだ」
「できるものなら」
会話が終わると、ピリッ……とした空気がその場に流れる。
先頭の男が合図すれば、後ろにいた黒スーツ達が千切に向かって走り出した。
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