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正直、江湖は自分の目を疑った。
あれだけいた黒スーツ達の半分が、地に伏している。
千切よりも背が高く、ガタイのいい男が宙に舞った時はなんの冗談かと思った。
「あら、いいのは威勢だけかしら」
余裕綽々に笑う千切に、先頭にいた黒スーツの眉がピクリと動いた。
そして数瞬何かを考える様子を見せ、口元を歪ませる。
「……お前、最近子供と一緒にいるそうだな?」
スーツの内側に手を入れ、そう言って笑うその男に、千切は視線を向ける。
それを見た男はクツリと笑い、スーツの内側から拳銃を取り出した。
「さっきまでも、一緒にお手々繋いで走っていたそうじゃないか。まだ近くにいるんじゃないか?」
「お生憎様。あの子はもう家に帰したわ」
子供は寝る時間だしね。と冗談混じりに言う千切に、男はそれでも笑みを崩さなかった。
「"朝羽 江湖"。14歳だったか?」
「……てめぇ」
「我々が何も調べずにお前を追いかけると思うか?お前が大人しく俺達と共に来るなら、あの子は見逃してやろう。だが、それを拒むというなら……」
男の持っている、黒光りしたそれが答えだった。
千切の顔が曇った。
それを見た江湖の頭に浮かんだのは、"足でまとい"という言葉。
自分がもっと強ければ、千切を心配させる事なんてなかったのに。
一緒に闘ったり、逃げ切ることだって出来たかもしれないのに。
"無力"
それがとてもとても、悔しかった。
「…………わかったわ」
「ふん。最初からそう大人しくしていればよかったものを」
「これも性分なのよね」
「あとその気色悪い喋り方をやめろ」
「ぶっ飛ばすわよ。これは俺のアイデンティティーよ」
そんな言い合いをした後、千切は大人しく黒スーツの元へ歩いていく。
ダメだ。ダメだ。
あんなに嫌がっていたのに。
俺のせいで。なんて、そんなの、
「ダメだ!!!!!!!」
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