第12走

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そう思うのは、傲慢だろうか。 まるで、「そうだ」と言わんばかりに。 その直後、鉄の塊が視界を埋め尽くした。 「……え?」 何が起きたのか、まったく理解ができなかった。 突然、何かが上から。 何か、何が? ゆっくり動かした視界には、骨組みに使用するのだろう鉄の塊。 黒スーツの男達も巻き込んで、すべてが鉄の下敷きになっていた。 「……龍人……?」 頭が、真っ白だった。真っ黒だった? 明滅繰り返す視界の端に、鮮明な赤。 我に返った時には、一体どれだけの時間が経っていたのだろう。 「龍人!!!」 鉄の塊をどかしたくても、とてもじゃないが動かせる重量じゃない。 下手に動かせば、さらに崩れて被害は大きくなるかもしれない。 無闇に触れるわけにはいかない。 もしかしたら、隙間ができていて、助かっているかもしれない。 「もしかしたら」の可能性にかけて、江湖は助けを呼びに行った。 足が震えてうまく走れない。 何度も躓き、転びながらも、やっとの思いで通行人を捕まえ、救急車を呼ぶ。 その後のことは、うまく覚えていない。 でも、自分は泣いたのだという事はわかった。 泣いて、泣いて、泣き尽くした。 声が涸れるまで。 自分の無力さを、不甲斐なさを、惨めさを呪って、何度も何度も屋上に足を向けた。 でも、それでも。 「お前は生きろ」の言葉が、「あと一歩」を留めた。 貴方がいない、この世界は、とても寂しい。 ……────
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