第13走

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そんな生活が2年続いた。 俺がこの目で初めて空を見たのは、家が全焼した日だった。 何故、すべて灰になったのかはわからなかった。 ただ、自分という存在だけは無事だった。 黒い靄が自分を護るように身体中に纏わりつき、少し鬱陶しかったが、害はないので放っておいた。 そんな事より、俺は初めて見る光景に夢中だった。 白み始めた空にのぼる、白い太陽。 眩しくて、目が焦がれそうだった。 物に色があるのを、その日初めて知った。 空がこんなに綺麗なものだと、何故か涙が流れて止まらなかった。 ふらつきながらも、足を進めた。 どこに向かってるのかなんて、自分でもわからなかった。 何もわからなかった。 それでも、足は何処かに向かって進んでいったのだった。 しかし、すぐに体力の限界はきた。 一室で過ごしていた自分の足は、なかなか思うように動かず、何度も躓いて転んだ。 何度も何度も倒れ込みながら、それでも、足を止められなかった。 土の感触、草の感触、木々、花々、空気、風。 どれも新鮮で、真新しくて、楽しかった。 気がつけば、山の奥に来ていた。 頂上付近の、崖の前に腰を下ろして景色を眺める。 太陽は真上にあった。 変わっていく景色が不思議で仕方がなかった。 「うわ、気持ち悪い」 不意にそんな声が聞こえて顔を上げる。 そこに居たのは、長めの銀髪に、空と同じ色をした目の若い男だった。 心底不愉快そうにこちらを見るその男に、俺は首を傾げる。 言われている意味もわからなければ、言葉自体がわからなかった。 「はぁ?どんな育ち方してきたわけ。ほんと気持ち悪い」 「おい、アルベルト。何やってんだ?」 ますます顔を顰めるその男の後ろから、真っ赤な髪の男が、土色の目でこちらを不思議そうに見る。 俺に不愉快そうな視線を投げかけるこの男は、アルベルトという名前らしい。
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