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「こいつ、空を見るの今日が初めてなんだって」
俺が何も喋っていないのに、そのアルベルトという男は俺の事情を後から来た男に話しだす。
後から来た男の名前はシリアというらしい。
アルベルトと同い年くらいだろうか。
「それで、何かを見る度に"綺麗"だの"楽しい"だのキラキラした感情ばっかで、ほんと気持ち悪いったら」
「あぁ、お前にはない感情だもんな」
「ほんとにお前って僕に失礼だよね」
眉間にずっとシワを寄せているアルベルトに、シリアは気にした様子もなく俺の前に膝立ちで座る。
まだ10代くらいのその男はとてもガタイが良く、2人が並ぶとアルベルトの華奢さが際立った。
「ぶっ飛ばすよ」
「は?」
「お前じゃないよ」
突然の暴言に怪訝そうに振り返ったシリアに、アルベルトはぶっきらぼうに言ってそっぽを向く。
どうやら自分の身体が細い事を気にしているらしい。
アルベルトは口が悪かった。
今では柔和な笑みを浮かべながら丁寧な言葉で話すが、この頃のアルベルトはいつも仏頂面で、とても短気だった。
「キミ、こんなところで何してるんだ?」
シリアが俺に優しく話しかけてきたが、言葉がわからないので何も返すことが出来なかった。
何かを聞かれていることはわかるが、それが何かわからない。
だんだん怖くなってきて、俺はヨロヨロと立ち上がると、シリアやアルベルトから逃げるように歩きだした。
「ちょ、まってくれ」
突然、何も言わず離れていく俺の腕を、シリアの手が掴んだ。
初めて感じる他人の体温に、ビクッと身体が跳ねた。
ますます怖くなって、しかし、身体は不思議と動かなかった。
「無駄だよ。そいつ、言葉がわからないんだってさ」
「は?」
「あと、お前が怖いって」
小刻みに震えだした俺に、シリアは慌てたように腕を離して狼狽える。
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