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気がつけば黒い靄は消えていて、口の中にサンドイッチを突っ込まれた。
「それでも食ってれば」
そう言ったアルベルトは、また荷物を漁り始めた。
口の中に広がった美味しさに、俺はすぐに食べるのに夢中になっていた。
それはただのサンドイッチだったが、今まで食べたものの中でダントツの美味しさだった。
サンドイッチを食べ終わっても、俺はその場から離れる事はなく、何か作業をしているアルベルトをジッと見ていた。
蒼い石の嵌った指輪の裏に、何か刻印のようなものを彫っている。
やがて彫り終わったのか、次は万年筆のようなものを取り出し、空中に文字を描き始めた。
それは淡く水色に発光し、消える事なく宙に浮いていた。
そしてアルベルトが何か一言呟けば、その文字たちは指輪の蒼い石に吸い込まれるように消えていった。
今では、なんつー人間離れした事をやってるんだこいつと思うが、当時の俺はそれを不思議そうに見ることしかできなかった。
「ほら、手出しなよ」
こちらに手を差し伸べてくるアルベルトに、意味がわからずその手を見つめる。
それに呆れたようにため息を吐いたアルベルトは、少し強引に俺の手を取り指輪を中指に嵌める。
「それがあれば、魔法は一切使えないから。安心していいんじゃない」
アルベルトの言っている意味はわからなかったが、自分の中指でキラキラ光る指輪に心が踊った。
これが嬉しいという事だと、今ならわかる。
どこかフワフワとしたような気持ちに、俺は自然と笑っていた。
それを見たアルベルトは何か言いたげだったが、やがて呆れたように少し笑ったのだった。
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