第13走

7/21
前へ
/376ページ
次へ
気がつけば黒い靄は消えていて、口の中にサンドイッチを突っ込まれた。 「それでも食ってれば」 そう言ったアルベルトは、また荷物を漁り始めた。 口の中に広がった美味しさに、俺はすぐに食べるのに夢中になっていた。 それはただのサンドイッチだったが、今まで食べたものの中でダントツの美味しさだった。 サンドイッチを食べ終わっても、俺はその場から離れる事はなく、何か作業をしているアルベルトをジッと見ていた。 蒼い石の嵌った指輪の裏に、何か刻印のようなものを彫っている。 やがて彫り終わったのか、次は万年筆のようなものを取り出し、空中に文字を描き始めた。 それは淡く水色に発光し、消える事なく宙に浮いていた。 そしてアルベルトが何か一言呟けば、その文字たちは指輪の蒼い石に吸い込まれるように消えていった。 今では、なんつー人間離れした事をやってるんだこいつと思うが、当時の俺はそれを不思議そうに見ることしかできなかった。 「ほら、手出しなよ」 こちらに手を差し伸べてくるアルベルトに、意味がわからずその手を見つめる。 それに呆れたようにため息を吐いたアルベルトは、少し強引に俺の手を取り指輪を中指に嵌める。 「それがあれば、魔法は一切使えないから。安心していいんじゃない」 アルベルトの言っている意味はわからなかったが、自分の中指でキラキラ光る指輪に心が踊った。 これが嬉しいという事だと、今ならわかる。 どこかフワフワとしたような気持ちに、俺は自然と笑っていた。 それを見たアルベルトは何か言いたげだったが、やがて呆れたように少し笑ったのだった。
/376ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1298人が本棚に入れています
本棚に追加