第13走

9/21
前へ
/376ページ
次へ
学ぶのが楽しかった。 目に映るすべてが不思議だった。 知る度に心に何かが埋まっていくのを感じた。 そんな俺を何か言いたげに見るアルベルトに、首を傾げてはため息を吐かれて「なんでもない」と言われた。 色々な事を学ぶ毎日を過ごし、言葉も話せるようになった頃。 シリアがアルベルトの家にやってきた。 「……俺、嫌われてんなぁ」 「初対面がアレじゃあね」 部屋の隅に座り込んで本を読む俺に、シリアは苦笑した。 いつもなら椅子に座って本を読んでいたが、どうもシリアの正面に座る気にはなれなかった。 「悪かったって。ユオ」 「気安く俺の名を呼ぶな」 「……まったく、誰に似たんだか」 「僕じゃないからね」 取り付く島もない俺に、シリアはやれやれと言いたげに出されたお茶を飲む。 それに不愉快そうに顔を顰めるアルベルトも、シリアの正面に座ってお茶を飲んでいる。 「いい名前じゃないか。お前が考えたのか?」 「まぁね。たまたま開いていた本にあった言葉なだけだけど」 「へぇ、意味は?」 「夜」 「……まぁ、なんというか似合ってるな」 本当は俺の髪を見たアルベルトが、さして考えた様子もなくそう呼び始めたのだが。 なるほどそういう意味があったらしい。 それを隠すあたり、アルベルトは本当に素直じゃない。 額にうっすら青筋を浮かべてこちらを見てくるが、知った事ではない。 無意味に隠すお前が悪いのだ。 素直になれば、少しはその誤解されやすい性格も変わってくるというのに。 「で、今日は何しに来たわけ」 逃げるようにシリアにそう問いかけるアルベルト。 シリアがただ遊びに来ただけではない事は、薄々俺もわかっていた。 アルベルトの家にシリアが遊びに来ることはままあったが、今日はどこか表情が硬い気がしたのだ。 誰かとは違って嘘がつけない性格なのである。
/376ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1298人が本棚に入れています
本棚に追加