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黒いウサギとは正反対の、真っ白な髪をした男だった。
一瞬、老人かと思ったが、どうやら自分とあまり歳は変わらなそうだ。
ウサギが膝に乗っても、その人物はスヤスヤ眠っていた。
「な、なんだ……飼い主、ここにいたのね」
はぁ、疲れた、と腰に手をあてて息を吐く江湖。
飼い主がいたなら安心ね、と来た道を戻ろうと振り返った江湖の後ろで、白髪の男はゆっくり目を開けた。
「どこ行くの……?」
ゆっくりとした口調で言葉を発するその男に、江湖は驚いて思いっきり振り返る。
この声、さっき脳内に響いた声と同じ、声。
眠そうに開けられた目は、リンゴのように真っ赤だった。
「あら、起こしてしまったかしら。ごめんなさい」
「……どこ、行くの……?」
起こしてしまったか、と謝る江湖に、その言葉を無視して同じ質問をしてくる男。
それに困ったように眉を下げる江湖は、小さく息を吐いた。
「用は済んだから、帰るのよ」
「……どこに?」
「どこって……」
あれ、自分はどこに?
家。
そうだ、家に。
自分の、家に。
「……どうやって?」
そこで、江湖は辺りを見回す。
先程まで、あった並木道が、なくなっている。
いや、自分はついさっきここに来たのだ。並木道を通って。
白髪の男と、黒いウサギが、真っ赤な目で江湖を見ている。
それに、得体のしれない恐怖を感じて、江湖は思わずその男とは逆方向に走り出す。
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