第1走

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黒いウサギとは正反対の、真っ白な髪をした男だった。 一瞬、老人かと思ったが、どうやら自分とあまり歳は変わらなそうだ。 ウサギが膝に乗っても、その人物はスヤスヤ眠っていた。 「な、なんだ……飼い主、ここにいたのね」 はぁ、疲れた、と腰に手をあてて息を吐く江湖。 飼い主がいたなら安心ね、と来た道を戻ろうと振り返った江湖の後ろで、白髪の男はゆっくり目を開けた。 「どこ行くの……?」 ゆっくりとした口調で言葉を発するその男に、江湖は驚いて思いっきり振り返る。 この声、さっき脳内に響いた声と同じ、声。 眠そうに開けられた目は、リンゴのように真っ赤だった。 「あら、起こしてしまったかしら。ごめんなさい」 「……どこ、行くの……?」 起こしてしまったか、と謝る江湖に、その言葉を無視して同じ質問をしてくる男。 それに困ったように眉を下げる江湖は、小さく息を吐いた。 「用は済んだから、帰るのよ」 「……どこに?」 「どこって……」 あれ、自分はどこに? 家。 そうだ、家に。 自分の、家に。 「……どうやって?」 そこで、江湖は辺りを見回す。 先程まで、あった並木道が、なくなっている。 いや、自分はついさっきここに来たのだ。並木道を通って。 白髪の男と、黒いウサギが、真っ赤な目で江湖を見ている。 それに、得体のしれない恐怖を感じて、江湖は思わずその男とは逆方向に走り出す。
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