第1走

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怖い。 こわい。 コワイ。 なんだこれ、なんなんだこの状況。 いったい、何が起こっているのか、まったくわからなかった。 木々の生い茂る、デコボコな、道なき道を必死で走る江湖。 出口が見えて、ホッとする。 そして、出た、その先に。 「おかえり」 先程の男が、いた。 大きな木の下に立って、こちらを見ている。 どういう、事……。 江湖はもう一度、山を走り回った。 それでも、出てくるのはあの男のいる場所だった。 何故、どうして、家に、帰れない。 『助けてやろうかー?』 何度目かの逃走で、体力も尽きてきた時。 どこか聞きなれたような声が、脳内に響いた。 「……だ、れ……?」 息も切れ切れで、江湖が呟くが、声が返ってくる事はなかった。 が、この状況を打破できるのならばなんでもいい。 「お願い……、助けて、ちょうだい……」 『かしこまりー!』 江湖が呟いたのと、空間がぐにゃりと歪んだのは、ほぼ同時だった。 歪んだ空間の端で、白髪の男の顔が悲しそうに歪むのが見えた……気がした。
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