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商店街の中は、小さな商店がピッタリとくっつきあうように軒を連ねていたが、所々建物と建物の間に狭い路地がある。
どこの店も午後9時を境にシャッターを下ろし始める。その後あいているのはコンビニや居酒屋が主だ。
閉店後のお茶屋と乾物屋などが入っている建物脇に、西山田は沙和子を連れて入り込んだ。
先程のように、紗々へ向かう常連客などとすれ違うのが嫌だったのかもしれない。
急に脇道に連れ込まれ、体勢を崩した沙和子が顔をあげた途端、西山田は沙和子の口を自分の手で塞いだ。
「!」
恐怖で目を見開く沙和子の顔を、西山田は見下ろす。
「怖がらないで。怖がらないで」
早口にそう言って、言葉とは裏腹に、その手に力を込める。
「また、あんなことになったら大変だ」
沙和子には理解できないことを、ぶつぶつと呟いてから、西山田は沙和子の目を覗きこんだ。
「さわちゃんと、仲良くしたいだけなんだ。俺のことを知ってもらいたいだけ。…でも、いつも邪魔が入るじゃない?…あの、大男とかね」
沙和子の両目から涙が溢れた。
掴まれているのとは反対の手で、西山田の身体を遠ざけるように押すが、その手は震えている。
「ああ、可哀想に…手が震えてる。口を押さえられてるのが嫌?でも、さわちゃん手を離したら、声出すでしょ?そうしたら、俺たち仲良くなれないじゃない」
必死に首を振る沙和子を無視して、西山田は話し続ける。
「どうして女の人は、僕のこと、わかってくれないんだろう。わかろうとしてくれないんだろう…あの子だって、僕は心配してただけなんだよ。なのに人の顔を見た途端、化け物でも見たみたいに大声出そうとしてさあ…」
何かを思い出すように、西山田は宙を見上げた。
その顔が険しくなっていくのを、沙和子は濡れた瞳で見上げている。
「…あの大男、嫌な奴だ。ちょっと身体が大きいからって、僕を見下ろして…虫でも見るように…あいつ、死ねばいい」
喋りながら、その手には更に力が入って、沙和子の頭を壁にぎりぎりと押し付ける。
「…や…めて…」
押さえ付けられた指の隙間から、沙和子は声を搾り出した。
「た…すけ…て…」
西山田が沙和子の声に反応する。
「助けて?誰に?あの大男を呼んでるの?」
口を塞いでいた手が、今度は首にかけられた。
「あんな男のどこがいいの?頭悪そうだし、野蛮そうだよ?どこがいいの?…そうだ、さわちゃんはどっちの恋人なの?」
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