109人が本棚に入れています
本棚に追加
呆然とその場に立ち竦んでいると、目が合った。
恍惚としていた表情が一転する。
「あぁ、すまない。興奮してしまったな」
いつもの口調だ。いつもの笑みだ。
落ちていた文庫本を拾うと、丁寧に土を払いながら、言った。
「僕が犯罪について詳しいことは知ってるよね。僕はその中でも、完全犯罪には目がなくて──」
文庫本を、大事そうに両手で抱える。
「犯人の手口が露見せず、ひっそりと闇に葬りさられてしまう可能性すらあるのが、完全犯罪と言うもの。警察すらお手上げするような犯罪が、僕は好きでね」
「……」
「あっ、もちろん証拠があればそれを犯人に突きつけてあとは警察に任せるが、今回のように証拠がなければ、犯人に敬意を送りたくなってしまうんだ」
なぜ、敬意を送りたくなるのかはやっぱり理解不能だが、いつもの優しげな口調で言われると、妙に納得してしまう。

最初のコメントを投稿しよう!