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一
暗い高速道路を私は愛車とともに走る。
深夜にもなるこの時間帯、車内は乗客たちの寝息だけが響いている。
やかましいイビキをかく男がいる日もある。
「今日は静かでいい」
そう静かに声に出してみた。
その声は凍えた吐息のように、目の前の空気のなかへと混ざるように消え入った。
そういえば、今夜は私の妻と娘が実家へ旅行に出かけると言っていた。
なんでも妻の地元に小さな規模だがテーマパークができたらしい。
1週間ほど前、
夕飯時にその話をした際に家族4人で思いのほか盛り上がってしまった。
それで、今日出かけることになったのだ。
私にはこの仕事中であるので、楽しんできてほしい。
……まあ寂しい気分ではある。
一家の大黒柱というものは辛い。
……。
車内の空気ももう一度、体で感じ取ってみる。
静かだが、人肌のある優しい温度が保たれている。
私は夜行バスが好きだ。
改めてそう思ったが、今度は口には出さなかった。
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