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何も変わらない毎日をただ繰り返す。そんな毎日に退屈していた。
だが、それも今日で終わるんだ。なにせこの俺には……
「あ、伸二君!おはよ!」
桜の舞い散る校門前。そこで俺に向かって手を振る可愛い女の子。俺は笑顔でその子の元へ走っていく。風に流される長い茶髪は右側をリボンで結んでいる。幼さの残る可愛らしい顔立ち。おっとりとした瞳は真っ直ぐ俺の事だけを見つめていた。
「ごめん、待たせた?」
「うん、大丈夫!伸二君の為なら待ってる時間すら幸せだから……」
「桜……」
「伸二君……」
無言で目を瞑る少女の顔はリンゴのように赤かった。俺はそんな少女の唇目掛けてゆっくり顔を近づける。そう、俺にはこんなにも可愛い彼女がいる。平凡な日常は今日で終わり。今日から桜色の幸せな高校生活が始まるのだ。
『……じ』
「……ん?」
唇が重なり合う数センチ前。突然声が聞こえ、俺は動きを止めた。とても聞き覚えのある声だ。辺りを見渡しても姿はどこにもない。声はどんどん近づいてきた。
『……じ』
『……んじ』
『……伸二!』
桜色の世界は一瞬にして崩れ去り見慣れた光景が辺りに広がる。
「……え?」
太陽の光が眩しい。確かにさっきまで校門の前にいたはずなのに、何故俺は自分の部屋のベットで枕を抱いて横になっているのだろう。
「伸二!いつまで寝てるの!?今日から学校でしょ?」
母さんの声が下の部屋から聞こえてくる。俺は体を寝かしたまま欠伸をした。寝てる?学校?母の言ったそんな単語が頭の中でぐるぐる回り、俺は等々本当の意味で夢から覚めた。
「夢かよ……」
思わず枕を投げてしまうほど落ち込む。フラッシュバックした夢のシーン。あの甘酸っぱい光景は全て幻なのだと考えると物凄く虚しい。夢から覚めた時の虚無感という奴は本当に虚しい。
せめて後数秒母さんが起こすのを遅らせてくれれば……そう考えてさらに虚しくなる。
「はぁ……」
ため息をつき、取り敢えず俺は上体を起こしてベットから下りた。パジャマから早々と制服に着替えて部屋から出る。リビングに行くとキッチンで母さんが朝ごはんのスクランブルエッグを焼いていた。
「やっと起きた。早くしないと初日から遅刻するわよ」
「分かってるよ」
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