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椅子に座ると食パンとベーコン、そしてさっき焼いていたスクランブルエッグが出てくる。黄色いドロドロに赤いケチャップを掛けてから手を合わせた。
「頂きます」
母さんは洗い物をしながら俺の制服姿を見る。
「それにしても、伸二が春咲高校に合格するなんてね」
《春咲高等学校 ハルサキコウトウガッコウ》はここらの学校の中ではトップクラスに偏差値が高い、難関な高校の一つだ。母さんはニコニコ笑いながら俺の制服姿を舐めるように見詰める。
「意外に似合ってるわよ」
「意外ってなんだよ……ありがとう」
「後は前髪を切りなさいね。伸びて目が見えないじゃない」
母さんの言う通り、黒い前髪が目にかかり視界も悪い。受験勉強やらなんやらで散髪に行く気もあまりしなかったのだ。そろそろ切らないとなと思いながら前髪を摘む。
「そんなんだと、彼女できないわよ~」
「うっさい!余計なお世話だ」
食パンを一気に口へ押し込み、手を合わせてご馳走様を言う。あまりゆっくりしている時間もない。
「じゃあ、行ってくる」
「何かあったらすぐに連絡しなさいよ」
母さんの言葉を背中で聞いて、俺は春咲高校へ向かった。
“あの子”にまた会うために。
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