ぷろろーぐ

3/3
前へ
/53ページ
次へ
椅子に座ると食パンとベーコン、そしてさっき焼いていたスクランブルエッグが出てくる。黄色いドロドロに赤いケチャップを掛けてから手を合わせた。 「頂きます」 母さんは洗い物をしながら俺の制服姿を見る。 「それにしても、伸二が春咲高校に合格するなんてね」 《春咲高等学校 ハルサキコウトウガッコウ》はここらの学校の中ではトップクラスに偏差値が高い、難関な高校の一つだ。母さんはニコニコ笑いながら俺の制服姿を舐めるように見詰める。 「意外に似合ってるわよ」 「意外ってなんだよ……ありがとう」 「後は前髪を切りなさいね。伸びて目が見えないじゃない」 母さんの言う通り、黒い前髪が目にかかり視界も悪い。受験勉強やらなんやらで散髪に行く気もあまりしなかったのだ。そろそろ切らないとなと思いながら前髪を摘む。 「そんなんだと、彼女できないわよ~」 「うっさい!余計なお世話だ」 食パンを一気に口へ押し込み、手を合わせてご馳走様を言う。あまりゆっくりしている時間もない。 「じゃあ、行ってくる」 「何かあったらすぐに連絡しなさいよ」 母さんの言葉を背中で聞いて、俺は春咲高校へ向かった。 “あの子”にまた会うために。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加