第1章 俺の誕生日

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柿花の人間というだけで、いつも俺の誕生日はお祭りみたいだった。 あちこちから送られてくるプレゼント。 でもいつだって一番欲しかったのは、山のようなプレゼントじゃなくて、照義がくれる「ちょっとお行儀が悪いけど、ずっとしてみたかったこと」だった。 たとえば、小学生の時なら夜中にフォークも使わずに食べるロールケーキ。 冷蔵庫から掴み取りしたケーキをそのまま持って、ソファで口の周りを生クリームだらけにして食べる。あとは大きなカップを抱え込んで、そこから直接スプーンでアイスクリームを削り取って食べる。 普段は絶対にお皿へ上品に盛られたものしか、おやつに出てこないから、それは俺にとって、何よりも禁断の甘さだった。 中学に入ってからはニキビが一丁前に気になってきて、禁断のおやつ食べは止めにして、代わりに、本当にちょっと危険なことをしてみた。 自転車二人乗り。 これは本当にドキドキした。 肩をぎゅっと握ることにも、そして、普段なら見ることのない角度の彼にも。 おまわりさんに捕まってしまうかもしれないっていうドキドキと その時は明確にあったわけじゃないけれど、たしかに自分の中にすでに存在していた恋心にも、いろんなものにドキドキして思わず、肩にしがみついてしまったことを覚えてる。 誕生日にだけ許される「イケナイこと」の共犯者、俺の大好きな照義が隣にいてくれたから。 毎日、一緒にいたけれど、俺と照義だけが共有する、秘密の誕生日は何よりも特別だった。 ――内緒ですよ? なんて、ニヤリと笑ってから、少し薄い唇の前に、スラリと長い人差し指を立てる照義に、胸が高鳴って仕方がなかった。 大好きで 大好きで きっと俺は物心がつく前から、彼にだけ恋していた。 あれは高校の時だっけ。俺はまだ高校生で、「俺」じゃなくて、お坊ちゃまらしく「僕」って自分を呼んでいた頃。 「俺、達樹君のことが好き、です」 そう告白された。 誕生日の前日に。 「あ、はい」 俺は当時そう答えたんだ。 嘘だと思ったから。
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