第1章 俺の誕生日

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俺の誕生日は四月二日 その同級生が告白してきたのは、四月一日。 誕生日前日でもあり、エイプリルフールでもある。 そんな日に告白されて、その日は朝から小さな嘘を皆が言い合って遊んでいたから、それもそういう類のものだと思って、俺は素直に頷いた。 告白をしてくれた子はすごく驚いた顔をしていたっけ。 そりゃそうだよ。 男が男に意を決して告白する。 しかも相手は、当時、かなり大きな財閥だった「柿花」のひとり息子。 玉砕覚悟で伝えた思いを俺は嘘だと思い、素直に頷いてしまった。 今なら本当に申し訳ないことをしたって思うよ。 せめて、その告白が誕生日当日なら、俺ももっと真剣に受け止めて断ることができたかもしれないのに。 お互いにとって運の悪いことに、俺、柿花達樹の誕生日は本当にあちこちからお祝いをもらうから、彼が告白をするような隙はほんの少しだってなかったんだ。 だから彼が告白できたのはエイプリルフールだけ。 「あのっ! え? はいって……受け入れてくれるの?」 え? 嘘だって、僕わかってるよ? そんな意味でコクンと頷いて。 彼はそれを別の意味で捉え、大喜びしていた。 完全なるすれ違い。 「そ、そしたら、明日、デートしないか?」 「いいよ」 ここで気がつけばよかったのに、俺はそこでも気がつかなくて、放課後に一緒に帰ろうって話して、その場を別れた。 変な嘘だなぁ、くらいにしか思わなかった高校生の俺に「バカ」って怒ってやれたらいいのに。 そして誕生日当日、俺は毎年のように「共犯者」になってくれる照義に「夜遊びデート」がしたいってリクエストしたんだ。 夜遊びっていっても、とても可愛いもの。 でもお坊ちゃまで、狭い世界しから知らなかった俺にはとてつもない大冒険だった。夜の繁華街を歩いて、カラオケして遊ぶなんてさ。 たかがそんな「夜遊び」に大はしゃいぎする姿を見て、照義がすごく嬉しそうに微笑んでいたのをよく覚えてる。 もうあの時は社会人として執事の仕事をしっかりこなしていたから、きっと、俺のはしゃいだ姿はとても可愛いものだったんだろう。 でも、それが一変したんだ。 「達樹君!」 夜の街で声をかけられて、「しまった!」って思った。 素行が悪いと思われるような現場を学校の人間に発見されたら、大変なことだって。
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