第1章 俺の誕生日

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恐る恐る振り返るとそこには、昨日、告白してくれた子がいた。 俺を見て、そして照義を見て、一瞬で、自分の告白をもてあそばれたと思ったんだろう。 ずっと、放課後待ってたのに! って、涙目で俺に掴みかかろうとしたところを照義がいとも簡単に捻り潰した。 理由とか、原因とか、そんなの照義には関係ない。 どんなに俺が彼へひどいことをしたかを知っていても、照義はあの時、ねじ伏せた力を緩めることはなかっただろう。 もちろん、事は大きくなり、そして、照義は罰を受けた。 謹慎。 俺ももちろん咎められたけれど、照義のほうが大罪者扱いだった。 俺の父さんにではなく、照義のお父さんにどのくらい絞られたのか、顔中、痣だらけになって。 「私に触ってはいけません」 ベソかきながら、腫れ上がった照義のこめかみに触れようとしたら、そう唸るような声で呟かれた。 「ねぇ、あの時、なんで、触っちゃったらダメだったの?」 「なんです? 唐突に」 久しぶりの日本に帰ってきて、一番に桜が見られたのは嬉しいなぁ。 なんて思う反面、もう少し普通のホテルでかまわなかったんだけど、と足元の遥か下にある満開の桜を眺めてる。 このホテルを取ってくれたのは俺達のスポンサーである今、話題の美人実業家となった豊崎さんだ。 「覚えてない? ほら、俺の誕生日にさ」 「あぁ」 それだけでわかったの? って、驚いたら、顔に出てしまっていたらしく、貴方のことならなんでもわかるんですよ、と穏やかに笑っている。 俺の勘違いで同級生を傷つけてしまった。 まだちゃんとわかっていなかったんだ。 人を好きになるっていうことを。 だから、彼の真剣な告白も当時の俺には、エイプリルフールの嘘遊びのひとつに思えた。とても、すごく、失礼な話なのだけれど。 そんな俺を責めるのならわかる。 でも、触るなって、責めるのとは違うだろ? わけを聞くこともせずに、俺の同級生を、つまりはどこぞのお坊ちゃまを、あろうことか道端に顔を押し付けねじ伏せた。 それを咎められた照義が、執事としての判断を誤ったことへの反省として言った言葉とも思えない。 「触ってはいけません」危険ですから、とでも言葉が続きそうだ。
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