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「あの時はもうめちゃくちゃでしたね」
「……うん」
本当に大問題だった。
柿花の御曹司が夜遊びしたことも大問題。
そこに執事である照義が同行していたことも大問題。
同級生のことも大問題。
はっきりいって、あの時、照義が執事の立場を下ろされたとしてもおかしくなかった。
「もう執事としてでも貴方のそばにいられないのなら、もう今後会うことが叶わないのなら、いっそ、ここで無理やりにでも、なんて、恐ろしいことを考えてたんです」
「え?」
「父に執事の職を解かれる寸前でしたから。それを止めてくださったのが達樹のお父様です」
そんなの初めて聞いたよ。
「あの時、頭の中がぐちゃぐちゃだった」
ぼそっと当時のことを打ち明けてくれる。
苦笑いを零しながら、若い頃の自分の大失態を呟く横顔をじっと見つめた。
大きな窓ガラスの向こう側でキラキラ輝く夜景が、隣に立つ照義の瞳に映りこんでいた。
達樹のそばに一生いられるのなら執事でもかまわないという思いと
執事のままでは叶うことのない願い。
それはいつだって胸の内で戦い合っていたけれど、あの瞬間、そのバランスが崩れかけた。
「あそこで私に少しでも触れたら、その瞬間」
「その、瞬間?」
照義の瞳に夜景が映りこんでいるからなのかな。
すごく綺麗で、見つめているだけで、心臓がドクドクうるさい。
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