プロローグ・朝もやの中の死

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 初めて知った。  火が直接カラダに点くと、むしろ「冷たい」のだということを。  長沼正人は、今その事実を知って、驚きと戸惑い、それから最大限の恐怖をもって、【箱】の中に広がる紅蓮(ぐれん)の炎に包まれる自分の姿を見ていた。  目を逸らすことは不可能だった。  彼のまぶたには、既に火の粉が最初に燃え広がり、それを閉じさせることを許さなかったからである。 (俺が、俺が一体何をしたっていうんだよ!)  長沼正人は声にならない絶叫を、今は自分の身を焼き尽くして行く炎の棺(ひつぎ)と化した【箱】の中であげた。  その声が誰かに届くことはなかった。  彼の声帯・気道・呼吸器は、既に焼かれつつあったから。 (冷たい冷たい、熱い熱い熱い熱い!!)  皮膚の神経細胞のすべてが、数千本・数万本の針となって、長沼のカラダに襲い掛かる。 (痛い痛い痛い痛いアツイアツイアツイアツイイタイイタイイタイ!!)  身動き出来ないくらいの小さな【箱】の中で、両手両足をワイヤーで縛られた長沼は、その壁面が鏡張りになっているのを再確認した。  鮮やかな朱の中にチラチラと揺らめく蒼。それらが全身を駆け巡っている。  自分が焼き尽くされる瞬間を、苦悶の極致の中で目の当たりにしていた。  
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