夜祭りデート

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 やっと抜け出した二人は、秩父神社の御神水へと向かった。 冷たい水で手を清めた後、神殿に向かって柏手を打った。 陽子は翼を、神殿の真っ正面にある北辰の梟へと案内した。 「翼、大学はどうするの?」 突然の陽子の言葉に翼は戸惑った。 「行ける訳がない」 翼が辛そうに言う。 陽子は翼を暖かく見つめながら、大学進学の道を模索始めていた。 翼が勉強熱心なのは、母親を喜ばせるためだと勝から聞いていた。 でも喜んで貰えない悔しさをひた隠しにしていると忍からも聞かされていた。  陽子は北辰の梟に手を合わせながら、自分が働いて翼を支えようと思い初めていた。 陽子はトイレに行くフリをして、北辰の梟の絵馬を買った。 《翼。東大合格》 そう書き込んだ。  秩父神社の鳥居から御花畑駅に通じる馬場通りは、ごった返していた。 二人は比較的流れている、線路伝いに御花畑駅を目指した。 談合坂の脇に備え付けられた椅子には、大勢の人が座っていた。 これから此処で秩父夜祭り最大のメイン、山車屋台の引き登りが始まろうとしていた。  何時か二人で行った羊山公園。 其処に仕掛けられた花火が始まる。 その途端に体がぶれる。 二人は抱き締め合った。 そうでもしない限り、引き離される可能性もあった。 二人は堂々と、恋人同士としての特権を行使した。 体が左右に揺れ、体ごと何処かに持って行かれる。 翼と陽子は離れまいとして必死だった。 秩父夜祭りの夜を満喫しようと、大勢の人々がこのイベントに酔っていた。
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