翼の秘密基地

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 神社にはこの時を待っていたかのように、善男善女が初詣に次々と繰り出してくる。 陽子はやっと立ち上がり、翼とはぐれないように寄り添いながら石段を登って行った。 「もしかしたら怖がり?」 翼の質問に頷く陽子。 陽子は翼の手をしっかり握った。 「翼とはぐれたら怖い。しっかり捕まえていて」 素直に甘える陽子。 (もっと大人にならなければいけないな) 階段の先にある大鳥居を潜りながら改めて誓う翼。 この時恋人達の未来は永遠に続いて行くと思われた。 悲劇が待っているとも知らず、二人幸せな時間を共用出来たことに酔っていた。 「ねえ知ってる。鳥居もこの沿道も真ん中を歩いちゃ駄目なんだって」 「ううん、知らない。でもどうして?」 「真ん中は神様の通る道だからだって」 「神様? でもみんな真ん中を歩いているよ」 翼に言われて後ろを振り向いてみた。 確かにみんな堂々と真ん中を歩いていた。 「これじゃ御利益は期待出来ないわねー」 陽子はこっそり言った。  「何お願いしたの? 大体見当はつくけど」 「えっ、何だよ。だったら言ってみろよ」 幸せ過ぎてどうしても緩んでしまう口元を、必至に隠しながら翼は言った。 陽子はそんな翼が愛おしくてならなかった。 「おじ様のことよね? 元気になってほしいから」 陽子は一緒に年越し蕎麦を食べた時の、勝の幸せそうな横顔を思い出していた。 「それと私のこと……」 (あっ!?) 言ってしまってから陽子は赤面した。 慌てて横を見ると、翼は含み笑いをしていた。 「ん、もう、イケず。翼の意地悪」 陽子は思わず翼にしがみついていた。
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