翼の秘密基地

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 木村家へ新年の挨拶に行こうと、御花畑駅に向かう。 二人の婚約を報告して祝福して欲かった。 認めてくれている家族に。 「きっとこの辺かな、秘密基地」 車窓の景色を陽子が指を指す。 翼が見ると、朝日を浴びて其処は輝いていた。  武州中川駅。 突然の翼の訪問に節子はとり乱していた。 「……ったく陽子ったら、知らせくれたら良いのに」 節子はそう言いながら、まだベットの中にいる貞夫(さだお)を起こした。 それでも、イヤな顔一つもしないで節子は翼をもてなした。 「今年はありきたりな物ばかりよ」 テーブルには御節料理。 「こんな物しかなくて」 節子はすまなそうにお雑煮を翼に勧めた。  そんな中で貞夫がマジマジと翼を見ていた。 「なあにお父さん? 翼の顔に何か付いてる?」 たまりかねて陽子が言う。 「いやー。見れば見る程良い男だ。陽子が惚れ込んだだけの事はある」 貞夫のその言葉で、陽子は真っ赤になった。 慌てて隣を見ると、翼も真っ赤になっていた。 「揃いも揃って。似た者夫婦だな」 貞夫の言葉で二人はもっと赤くなった。 「まだ早いよー」 陽子はやっとそれだけ言った。  「ねえ陽子。保育園は何処に決めたの? コッチで勤めないの?」 節子の何時もの攻撃が始まった。 節子はどうしても翼を婿にしたかったのだった。 「横瀬に空きがあるの。其処で勤めたいと思っているの。出来ればお姉さんの家から通えたらなんて……」 「えーっ!?」 翼は思わず声を上げた。 確か陽子は内定を戴いたと言ってた。 翼にとっても、それはただごとではなかった。 (親父……きっと怒るだろうな) 翼はドキドキしながら、陽子を見つめた。 「翼を彼処の家に置いておけないの」 でも…… 陽子はそう言いながら泣いていた。 (もしかしたら、口から出任せ? それでも嬉しい……) 翼も泣いていた。泣きながら笑っていた。 陽子の心遣いが嬉しくて堪らなかった。 少しでも懸念したことをすまないと思いながら。  「だったら此処に来たら? 私達は構わないよ」 そう言いながら節子は貞夫に目配せをした。 「あ、あー俺も構わない」 慌てて貞夫が言った。
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