奇跡と軌跡

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 そして今日は、陽子の二十歳の祝いの日だった。 会場は何時もと違う。 先の大地震で市役所の窓ガラスが割れ、修繕中なのだ。 酒に酔った新成人による暴走が問題になったこともなく、至って平穏な幕開けになった。 コーヒー事件の真相も、日高家の抱えた人間関係も知らされないままに…… 陽子はただ、やっと訪れた恋に身をおきながら懐かしい人達の中に身をおこうとしていた。  「暫く」 「あら、久しぶり。元気だった?」 陽子は二十歳だけど、そう言ってくれた親友は十九歳だった。 成人式は学年毎に集まるのだ。 「本当だ、陽子だ」 そんな声があちらこちらで飛び交う。 さながら其処はすぐさま同級会の席上のようになっていた。 「陽子見たわよ」 突然声が掛かった。 その方向を見ると、連んでいた高校時代のクラスメート達が手招きをしていた。 「アンタ大分浮かれていたわね」 陽子が仲間に加わった途端に、耳打ちされた。 (えっ、一体何!?) 陽子はドギマギしながら、頭の中を整理していた。 (きっと翼のことよね。ああ、なんて話せばいいの? 年下だけどイケメンだから惚れちゃった。なんて……言えないよー) そう、翼は本当にイケメンだった。 強いて言えばジャニ系。 だから、今まで翼に恋人が居なかったなんて信じられなかったのだ。 だから、付き合ってくれて本当に嬉しかったのだ。  素直に好きだと言った。 やっと訪れた恋に身を焼きながら。 でも本当は心配だった。 振られたらどうしよう。 そればかり考えていた。 でも言って良かったと今では言える。 あんな可愛い恋人は、絶対何処にもいない。 陽子はドキドキしながら、クラスメートとの会話の中に溶け込もうとしていた。 (ねえ翼……なんて言ったらいい? 私の方から好きになっちゃったって素直に白状しようかな? ねえ翼……根掘り葉掘り聞かれそうで怖いよ) 「ねえ、みんな聞いて。陽子ったら素敵な彼氏を手に入れたのよ」 「えっーマジ!? 私てっきり男性に対して潔癖症かと思ってたのに」 「嘘っー!? 信じらんないよー。だって、恋愛談義にも乗れなかったじゃない」 そうなのだ。 陽子は奥手で、初恋すら未体験だったのだ。 「ねえねぇどんな人?」 「言っちゃおうかな?」 陽子を見ながら、目配せをするクラスメート。 陽子は恥ずかしそうに俯いた。
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