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Sosuke in wonder land-1
もしその訪問が3日前だったら.
僕はその訪問者を、
「ただのマニアックなお金持ちの客」としか思わなかっただろう。
けれど偶然にも前日知ってしまった事実に(と言っても完全に信じてはいなかったのだが)あまりにも合致していて、目の前の情景に「運命」というものを感じずにはいられなかった。
「いらっしゃい…ませ」
ドアベルの音に顔を上げると入口には異様に目立つ、けれどもどこか既視感のある女の子が立っていた。ハーフなのか、日本人離れした顔立ちと雰囲気を持っているその子は大きな目をさらに大きく見開いていて、店内をキョロキョロと見回している。
黒いリボンにブルーのワンピース。黒い艶艶のシューズ。ご丁寧にレースのエプロンも白いから、誰が見ても「アレのコスプレ」と思うだろう。最初に見たことがある気がしたのはこのせいか。
年の頃は14~15か。
知り合いにも親戚にもそんな子はいなかったはずだ。
両側にいる保護者みたいな男たち(双子?)もいい歳した割にはまるで彼女に合わせたかのように時代錯誤めいた「アレッぽい」そろいの服装。彼らは制服での勤務中なのだろうか、それにしても目立つ。
まあ、人のことは言えないのだが。
「あなた、三月うさぎさん?」
こちらを振り向くなり開口一番そういった彼女の言葉は、この店に1年近くいる間にもう何度もいろんな客に言われているので対応も慣れていた。
「……ええ、オーナーの趣味ですが、いかにもこの格好は「三月うさぎ」です。
まあ、時計店ですし、店名が店名ですしね」
そう言いながら(不得意な)営業スマイルを浮かべる。愛想がよくない僕でもこれでお客さんとの会話の糸口を掴めるのだから、オーナーの狙いは必ずしも偏った趣味に因るものだけではないのだろう。
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