第1章

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ここは群馬県のとある地方都市。 私は閑散とした駅に降り立った。 1月半ばの晴れた日、今日は北風が強い。 リクルートスーツの上にコートを羽織っただけなので、寒さに思わず身体を震わせる。 人の少ない駅前に出ると辺りを見回した。 活気の無い、寂れた街。大きな建物もなく、数台のタクシーがロータリーの隅に客待ちの列を作っている。 私が足を向けると、1台のワゴン車から初老の男性が降りて声を掛けてきた。 「失礼ですが、竹内瑞穂(たけうち みずほ)さん?」 「はい。そうです。」 「ああ、良かった。私は新橋運輸の小倉宗介(おぐら そうすけ)です。用事があって近くまで来たものだから電車の見当をつけてお待ちしてました。」 小倉さんは人の良さそうな笑顔で手招きをする。私は慌てて頭を下げた。 「ありがとうございます!お手間をお掛けして申し訳ありません!」 「いやぁ、良かった。こんな田舎には来てくれないかもって、心配しましたよ。」 「とんでもないです。面接していただけるだけでもありがたいです。」 小倉さんは何度も頷きながらワゴン車の助手席のドアを開けた。 「まあまあ、ここは寒いし、出発しましょうか。どうぞ、乗って。」 「ありがとうございます。失礼します。」 小倉さんは私を乗せると運転席に乗り込み、エンジンをかけた。 車は駅前通りから交差する国道を左折すると、暫く道なりに進む。 「あの…失礼ですけど…社長さんでいらっしゃいますか?」 面接の案内状に書かれていた名前を思い出していた。 「ははは!一応ね。まあ、社員は雑用係ぐらいにしか思ってないだろうけど。」 「そんな!きっと皆さん仲が良いんでしょうね。」 「ええ。仲は良いと思いますよ。ボクもそれで満足。」 「素敵ですね。」 「うん。ドライバーってのは孤独だしね。拘束時間も長いから、みんな家族みたいに思ってくれたら一番かなってね。」 今の時代でもこんな社長がいるのかな。 もしかしたら騙されているんじゃないかな。 ボロボロな会社だったりして… とにかく自分の目で確めてみよう。
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