第1章

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私は高校を出てから3年間、家の近くの金属加工会社でずっと契約社員として働いてきた。 しかし契約期間終了という名目で簡単に解雇された。 私が小学4年生の時に父が他界してからというもの、母は私と弟を必死で育ててくれた。 今でこそ弟も就職して生活も安定したが、昔は随分苦労していた。 だから私は母に負担を掛けないように、 いつまでもブラブラしている訳にはいかなかったのだ。 しかし現実はやっと面接に漕ぎ着けては不採用の通知を受けとる、の繰り返し。 半ばヤケになり、ダメ元で求職範囲を関東全域に広げたところ新橋運輸を見つけたのだった。 実家から離れているなどと言っている場合ではなかった。 給料は東京並み、しかも寮あり光熱費なし朝昼食事付きとある。 私はすぐにこの求人に飛びついた。なんとしてもこの会社に就職したかった。 なぜ厚待遇にもかかわらず応募者が殺到しないのか、などと考える余裕はなかった。 やがて車は右折すると坂道を登り始めた。 だんだんと人家が減り少し不安になってきた頃、台地のような平らな土地に人家や商店、学校などが集まっている地域に出た。 「この辺が一番近い村なんですよ。一応コンビニやスーパーもあるけど、さっきの国道まで出れば大きい店がありますよ。」 「そうなんですか。駅までバスとか、走っているんですか?」 「うーん、あるにはあるけど…無いに等しいね。」 小倉さんがそう言ってニッと笑う。 「今はみんな車持ってるから。」 「なるほど。」 「竹内さんは免許持ってるのかな?」 「……ペーパーです。」 「あはは!ウチにいたら卒業できますよ。」 「全然乗ってないからちょっと怖いかも…」 「車の運転は楽しいよ。免許は有効に使って欲しいな。」 「そうですね……頑張ってみます。」 車が再び坂にさしかかっていく。 いよいよ山に入っていく手前、ちょうど道が左にカーブしている土地が大きく拓け、トラックステーションがあらわれた。 大型トラックが何台か停まっている。 「さあ、着きましたよ。ここが新橋運輸です。」 大きくて立派な会社…… 「はい。ありがとうございました。」
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